条例案(市民案)の概要

1.条例のコンセプト


  • 人類共通の課題:地球温暖化
    私たちは、深刻な地球温暖化の問題に直面しています。地球温暖化は、大規模な自然災害などの要因となり、将来世代の安全で健康的な生活をも脅かす問題です。人類共通の喫緊の課題として、解決に取り組んでいく必要があります。そのためには、省エネルギーと再生可能エネルギーの利用を基本とするエネルギー政策を促進することが欠かせません。

  • 災害時に安心できる街を
    東日本大震災は、大災害時の都市の弱さを私たちに痛感させました。遠方の大規模発電所から送電される電力に依存する都市は、大震災に見舞われれば直ちに電力不足に直面し、多くの人々の生活が立ちいかなくなる危険をはらんでいます。私たちは災害時も安心できる、小規模分散型・地産地消型の電力供給システムがある街にしたいと考えます。

  • 市民参加型こそ川崎流
    川崎市は長年をかけた公害克服の歴史をもち、川崎市環境基本条例をもって市民・事業者・行政が協働して環境改善の活動に取り組んできた素地があります。川崎市地球温暖化対策推進条例の下、温暖化対策や様々な教育・啓蒙活動が地域から進められてきました。また川崎市自治基本条例をもつ私たちは、市民自らが問題を提起し、自ら解決の主体となり、市政と対等に協働して市民の福祉が実現される地域社会の創造を目指すことを市民の責務と考えてきました。次世代にどのようなエネルギー環境を受け継いでいくか、市民参加で決めていくのが川崎流です。そして、川崎市内には、市民によるエネルギー選択を支えることができる技術を持った事業者が多く存在しています。

  • 大都市の再エネモデル 川崎から世界に発信を
    世界各国でエネルギー政策・産業の重点は、石油・石炭などの化石燃料や原子力から再生可能エネルギーにシフトしつつあります。国内でも再生可能エネルギー促進を目的とした条例を定め、行政と住民が協働して再エネ促進を通じた街づくりを進める地域が増えていますが、多くは小規模自治体の取組みとなっています。大都市らしい再エネ促進のあり方を、世界有数の高度なものづくりを誇る川崎から発信することは、日本国内はもちろんのこと、国際社会においても、川崎市の存在感を大いに強めることとなります。

2.条例の特徴


  • 100万都市では先進的な条例となります

     原発事故以前より、すでに20を越える自治体が、それぞれの地域性を活かした「再生可能エネルギー促進条例」を制定しています。特に事故後は、省エネ・再生可能エネルギー利用促進を目的とする市民・市内事業者への事業支援を具体的に定める条例が次々と誕生しています(例:鎌倉市、小田原市、愛知県新城市、長野県飯田市、など)。しかし人口100万人を越える政令市における制定は、前例がありません。

    ⇒大都市における市民参加型再生可能エネルギー促進の取組を支援する先駆的な条例となります。


  • 地域エネルギー参画権をうたいます

     川崎市自治基本条例(H.17)は、基本理念に「市民は、その信託に基づく市政に自ら主体的にかかわることにより、個人の尊厳と自由が尊重され、市民の福祉が実現される地域社会の創造を目指すこと」と謳い、市政に関する「情報共有・市民参加・協働」を3原則に掲げています。これまで、エネルギー政策は国と大規模事業者に任され、市民の意見が反映されてきたとは言い難く、電気事業の閉鎖性や硬直性が、大震災に伴う惨事の要因の一つであったことが指摘されてきました。

    ⇒本条例案では「地域エネルギー参画権」をうたい、市のエネルギー政策に関する情報収集と市民の意見を反映させることを市民の権利とします。

3.基本理念


環境負荷の低い安全で持続可能なエネルギー利用の促進を目的とする本条例は、以下を前提とします。

  1. 市民・市・事業者が自らの責任と役割を自覚し相互に連携します
  2. 地域の発展と調和への配慮を大切にします
  3. 省エネと適正な技術の導入を促進します
  4. 先進的エネルギー構造をもつ都市像を追求します

4.地域分散型の再生可能エネルギー利用を促進するしくみ


市民が再生可能エネルギーを利用するために、再エネを創りたいと考えても、資金や場所の確保の面で難しいことがあります。そこで、本条例案は、市が再生可能エネルギーを創りたいと考える市民を支援し、再生可能エネルギーの利用が促進される仕組みを提案します。

【市による支援の具体例】
 ・事業の実施計画策定や運営委のための助言
 ・投資を受けやすくするための信用力付与
 ・補助金の交付または資金の貸付

 ・市有財産にかかる利用権原の付与

【支援実施までに想定される流れ】

 支援を受けたい団体(川崎市民で構成される)が市長に支援事業認定を申請

⇒市民等で構成される審査会の意見を尊重し、市長が支援対象とする事業を選定

⇒市長は審議会に意見を求めながら支援内容を決定

⇒認定を受けた事業に対する支援を開始

5.しくみのかなめ:地域エネルギー参画権


本条例では、市民が条例の手続に参加することを権利として定めています。

条例のしくみが適切に運用され、真に市民がその恩恵を受けるようにするためには、市民の参画が必要と考えるからです。

【審査会】

市民、事業者、学識経験者が構成員となる組織です。市民は事業者や学識経験者と対等に発言でき、条例のしくみの運用に市民の意見を反映させることができます。市長は支援対象事業を認定する段階と支援内容を決定する段階の両段階で、審査会に諮問し、その答申を尊重した決定を行うことを定めます。

 

 

【公聴会】

市のエネルギー政策について、市民が行政担当者から説明を受けたり、多様な意見を述べたりする場を設けることを定めます。

 

【情報公開】

市民の情報収集のために、市長が作成するエネルギー基本計画、支援対象として認定を受けた事業の情報、審査会が市長に対し行った答申内容、公聴会で市民から出された意見、それに対する見解や対応などについての情報公開を定めます。

6.川崎市の他条例との関係


市民・市・事業者が連携して公害と向き合ってきた歴史をもつ川崎市には、多くの自治・環境関連条例があります。本条例とそれらの関係は以下のように考えています。

【川崎市環境基本条例】

川崎市環境基本条例第7条1項4号において、「エネルギーの効率的利用」など「自然の循環機能に即して市域における環境資源の保全及び活用を図ること」を市の基本的施策として掲げています。また、7条2項では、同条1項の施策を実施するにあたり、「都市構造…の変革等を含めた総合的対策を考慮するとともに、適切な市民参加の方策を講ずるよう努めるものとする。」と規定しています。

川崎市再生可能エネルギー促進条例は、市内の環境資源を利用して生み出すエネルギーの利用促進を図り、小規模分散型・地産地消型の電力供給システムを川崎市内に実現することを志向するものであり、その実現過程に市民が参画できる仕組みを設けています。この点で、川崎市再生可能エネルギー促進条例は、川崎市環境基本条例が定める基本的施策の実施に適うものです。

  

【川崎市地球温暖化対策推進条例】

川崎市地球温暖化対策の推進に関する条例は、第22条1項において、「事業者及び市民は、その事業活動及び日常生活において、再生可能エネルギー源を優先的に利用するよう努めるものとする。」と規定しています。また、同条2項では、市の努力義務として、「地域の特性に応じた再生可能エネルギー源の利用について検討するとともに、必要な措置を講ずる」ことを定めています。

川崎市再生可能エネルギー促進条例は、地球温暖化の防止に資するべく、市民の再生可能エネルギーの利用を促進する構造をもつものです。川崎市地球温暖化対策の推進に関する条例が市民に対して求める役割を市民が果たすことに、資することができます。

 

【川崎市自治基本条例】

川崎市自治基本条例は、第5条1項各号で自治運営の原則を定め、同項1号は情報共有、同行2号は市民参加による市政をそれぞれ定めています。また、第6条では、市民の権利として、「政策の形成、執行及び評価の過程に参加すること」(同条2号)を定め、第28条では、市が市民の多様な参加の機会を整備すべきことを定めています。

川崎市再生可能エネルギー促進条例は、再生可能エネルギー利用の促進のための仕組みの中に市民が参画することとしています(上記「4.再生可能エネルギーの利用を促進する仕組み」、「5.しくみのかなめ:地域エネルギー参画権」参照)。これは、川崎市自治基本条例が想定する市民参画のあり方の一つの具体化となります。